サラリーマンについて その2

なんでサラリーマンになるのがカッコ悪かったのか?

麻野たちの世代の少し上は、全共闘世代だ。全共闘世代というのは、体制に反抗して学生運動などする。ヘルメットかぶって「資本主義打倒」をうたうのだ。モロに学生運動をやらなくても、なんとなく気分で「資本主義=悪」という共通感覚はもっている。

ところが、そんな彼らも、いざ卒業となるとメシを食わないといけない。だから就職活動をする。しかしこれは情けない。だって、それまでずっと資本主義の矛盾をついておきながら、その資本主義を支える会社組織にはいっていくのだ。いってることとやってることが違いすぎる。そのため、その姿勢は、「ホントはイヤだけどしょうがなくやってる」にならざるを得ない。サラリーマンというのは、こそこそとなるものだったのだ。

時代の雰囲気というのは、あるとき、急速に変化することもあるが、だいたいは、グラデュエーションをえがいて、そおっと変わって行く。上に書いた、麻野より前の世代の感じていた「情けなさ加減」が、すでに学生運動の流行らなくなった麻野の時代にも、まだ、ノリとして残っていたのかもしれない。

麻野より上の世代だと、やっぱりカッコいいのは革命家だ。毛沢東やゲバラがヒーローで、サラリーマンというのは体制の下で資本家に搾取されているくせに、そのことを理解しない無知蒙昧な大衆の代表だった。これはカッコ悪い!

麻野の世代だと、さすがに革命家をヒーローとする心性はすでになかったが、その代わり、歌手や作家、画家、漫画家、学者、評論家、映画監督、シナリオライターなどの、クリエイティブな仕事がカッコいいとされていた。スポーツ選手もそうだ。自分の才能を活かして、他人にはできない作品や業績を作り上げるのがカッコいいのだ。

それにひきかえ、サラリーマンは、満員電車にゆられて会社に行って、基本的には誰でもできる仕事を、バカみたいにやるのだ。上司から理不尽な要求をされてもニコニコしていないといけない。嫌な営業先でも笑顔で夜の接待をするのだ。もちろん残業代などでない。不合理なことに、暑い夏に、長袖の背広着て、冷房をガンガンにかけるのだ。好きでもない仕事を我慢して一生するのだ。休みの日でも、社内運動会に勝つために練習するのだ。社員旅行で熱海で大宴会するのだ。それが退職まで続くのだ。終身雇用制だから、会社に入ってから仕事が向いてないと思っても、そこをやめると、もう他の会社には再就職はできないのだ。年功序列だから、若いときはどんなに能力があっても給料は安いのだ。足の引っ張り合いして、出世競争するのだ。でも、役員になれなかったら、定年で退職なのだ。定年になったら、趣味がないから、家にいてもすることがないので、妻に子供にバカにされるのだ。組織の歯車として身を粉にして働いて、非人間になってアガリなのだ。

長々と書いたが、これが、麻野が学生の頃に持っていたサラリーマンのイメージだ。最低のイメージだ。なんでこんなに最低になるかというと、ひとつには、学生時代に、会社の仕事の本質というものがイメージできていなかったからというのがあると思う。だから、表面的なところにしか目がいかないのだ。あと、これは個人的な事情だが、ウチの親父は教師だった。それで、直にサラリーマンと接する機会がなかったというのもあるかもしれない。(ここでいうサラリーマンは給与所得者という意味ではなく、会社員という意味。厳密に言うと、教師もサラリーマンになるが、ちょっとそれは話がややこしくなるので置いておく。ちなみに、教師がカッコいいかどうかは、人それぞれだと思う。学校の先生は、誰でも子供の頃から身近にみてるから、会社という得体のしれない組織の仕事よりは、何をするのかは、広く知れ渡っているだろう。少なくとも誤解は少ないと思う。)

「プロジェクトX」の時代というのは、まさにこの最低のイメージの時代だったはずだが、あの番組を見ると、少なくとも技術・開発系の仕事においては、仕事に夢と情熱は十分かけられるし、カッコ悪いなんてとんでもないとわかる。もちろん、テレビなので誇張や演出があるだろうが、それを差し引いても、そう思う。夢や情熱をかけて働く素敵なサラリーマンというのは、当たり前だがありえたのだ。そしてそれはおそらく、技術・開発だけではなく、事務や経理にも、いえたはずだと、今なら思う。

しかし、そんなこと80年代の学生は、知らない。ただひたすら、サラリーマンになるのは、イヤでカッコ悪かった。けど、しょうがない。メシのためにはしょうがなかった、のだ。恐ろしいことに、終身雇用だから、やり直すこともできない。やり直したら、ランクダウンは覚悟しないといけない。つまり、22、23歳で、いきなりよくわからない人生の選択をせまられるのだ。

そして、その最低なサラリーマンの象徴がスーツとネクタイ、七三の髪型だった。

ところが、そのイメージが、麻野が就職した、まさにその頃から急激に変わり始める。
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by asano_kazuya | 2004-10-05 23:37 | 身辺雑記