尾道にて

23日、尾道にある、東山という割烹料理店にいった。予約もしないでいきなり入ったのと、祝日だったせいでネタがなく、少し残念だったが、前々から抱いていた疑問がひとつ氷解したのは収穫だった。

小津安二郎の「東京物語」という映画の話だ。この映画は尾道の老夫婦が主人公なのだが、その妻が冒頭でお礼をいうシーンがある。ひとこと、「ありがと」というのだが、それが、聞いたことのない奇妙なアクセントなのだ。関東でも関西でもない、文字では表現できないアクセント。

最初に聞いたとき、「これは方言っぽくするために、適当に変なアクセントにしているだけだろう。方言の考証などはやってないに違いない」と勝手に思い込んだ。そして、小津め、尾道をバカにしやがってと、小さな憎しみさえもった。それくらい、「ありえない」、変なアクセントに聞こえたのだ。

ところが、この東山の店の人が、まったくこれと同じアクセントだった。きいた瞬間、「あ、あの、ありがとだ!」と思い、うれしくなった。店の人が姿を消した後、同席していた者にそれを話したら、「自分も、あの映画を見て、同じ違和感を持った。しかし、今、直に聞いてみると、まったく違和感はなかった」と答えが返ってきた。

たしかに、そうなのだ。

映画だと、えらい違和感があったのだが、今の店の人の「ありがと」には、なかった。おそらく、妻役の女優、東山千栄子は尾道出身ではないので(また勝手にきめつけてます)、少し誇張がはいったゆえの違和感なのかもしれない。

ということは、今まで、誇張された関西弁を聞いて違和感を感じるのは、自分が関西出身だからだと思っていたが、もしかしたら、そういうことだけではないのかもしれない。あまりに誇張された方言は、その方言のことをよく知らない人間にも違和感を与えるのかもしれない。

しかし、こういう話も思い出した。
蝶々夫人だったか、全然違うタイトルだったか。19世紀とか20世紀初頭、ヨーロッパ人にとって、まだ日本がものめずらしいと思われるだけの国だったころ、ヨーロッパのどこかで、登場人物として日本人がでる、オペラだか劇だかがあったそうな。その、日本人役を演じる役者は、西洋人か東洋人かまでは忘れたが、とにかく日本人ではなかったそうな。それで、その役者は、とにかく日本という国は変な国だということを誇張したくて、セリフの日本語を、西洋人には考えられないような変なアクセントと発音でしゃべったそうな。

その珍妙な話し方をを聞いた観客はゲラゲラ笑ったそうな。もちろん意味はわからない。日本語だから。ただ、笑いながらも、「いくらなんでも、これは劇の演出で、本当の日本人はこんなに変な話し方はしないだろう」とみんな思っていたそうな。なので、シリアスなシーンでは、ヨーロッパの人たちが思う、「まともな日本語」で話したそうな。

ところが、その劇を見た本物の日本人がいて、ゲラゲラ笑われた方のしゃべり方がよほど「完璧な日本語だ」と思ったそうな。むしろ西洋人の思う「まともな日本語」は、ダメダメだったらしい。

えーと。結局何がいいたいかわからなくなってきました。
「東京物語」、いい映画です。観て下さい。
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by asano_kazuya | 2004-12-26 15:17 | 映画