年金について
以前、細野真宏の『「未納が増えると年金が破綻する」って誰が言った? ~世界一わかりやすい経済の本~』をレビューしたことがある。
詳細は、レビューや元の本を読んでもらいたいが、はしょって説明すると、「未納が増えているのは国民年金だけで、それは日本の年金制度の一部分だから問題ない」という主張だ。極端なたとえでいうと、日本でヤギのミルクの消費量が半分に減ったとしても、日本人の食生活にほとんど影響はない、というような話だ。・・・ああ、よけいわかりずらいか。
このレビューを書いたとき、麻野は自分なりに年金の勉強をして、この本をかなり信用した。この著者の他の本も読んで、著者自身にも信頼を置いていた。
ところが最近、このような記事があった。
「どう計算しても年金は2032年に破綻する。財政検証のゴマカシを剥いだ真実の姿」
ここで野口悠紀雄が言っているのはこうだ。
---------------------------------------------------------------------------------
・2040年に、受給者は2割増え、納付者は2割へる。
・現在の「マクロ経済スライド」制度や保険料率の増加では、対応がおいつかない。
・しかも、「マクロ経済スライド」制度自体が発動してない。
なのに、問題がないとされているのは、おかしい。これには、以下のごまかしがある。
・賃金上昇率が2.5%という高い設定。ありえない。
・積立金の運用利回りが4.1%という設定。これもありえない。
そのごまかしを是正し、「賃金上昇率=0」、「運用利回り=1.4%」で
検証すると、「厚生年金は2032年に破綻する、ガガーン!」
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経済のことなど麻野にはさっぱりわからんが、野口悠紀雄はなんとなく雰囲気で信用している。細野も野口もどちらも信用をしているのだが、その二人がまったく違うことをいっている。困った。
と思っていると、細野真宏が、またこんな本を出していた。
『細野真宏の最新の経済と政治のニュースが世界一わかる本!』
本屋で手に取ると、また年金のことを語ってる。即、買った。というのが、やっぱり、レビュー買いた手前、まちがってたとなると、夢見がわるいのだ。間違ってたなら間違ってたで、せめて明らかにして、「反省してまーす」(もう古いな)くらいは言いたいと思って。
で、野口説と細野説をつきあわせてよんでみて、麻野の考えを織り交ぜながら、色々書く。ちなみに、両者が出しているデータそのものは頭からうのみにしている。検証、面倒だから。また、年金は、「国民年金」、「厚生年金」、「共済年金」があり、両者がどれをさしているのかで、数値が変わることがある。たとえば、積立残金が野口氏は140兆あるといい、細野氏は200兆といっている。これはおそらく、細野氏は3つの合計で野口氏は厚生年金だけをいってるんじゃないかと推測するが、麻野は推測だけで確認しない。面倒だから。
もう一度、野口氏のあげる問題を書く。
1:2040年に、受給者は2割増え、納付者は2割へる。
2:現在の「マクロ経済スライド」制度や保険料率の増加では、対応がおいつかない。
3:しかも、「マクロ経済スライド」制度自体が発動してない。
4:賃金上昇率が2.5%という高い設定。ありえない。
5:積立金の運用利回りが4.1%という設定。これもありえない。
まず1。これに関しては、現在の年金制度はそれを想定して計算しているので、そのこと自体は問題にしても仕方がない。野口氏は、「これでもまだ甘い。今後、正社員が減って、ますます払う人がへるかも」と言っているが、払わなかったらもらえないので、長い目で見た場合は関係ない。
次に、2,3だが、これは数字上の問題なので、変えればいいだけのことである。
年金制度の根幹には関わらない。
麻野が問題視したいのは、4,5である。
このうち、5については、細野の新著でかなり細かく説明がある。(P100~P111)
名目運用利回り(4.1%)
=物価上昇率(1.0%)+実質運用利回り(3.1%)
=物価上昇率(1.0%)+将来の実質長期金利(2.7%)+分散投資効果(0.4%)
実質長期金利(2.7%)というのは、「10年物の日本国債」の実質利回り。
分散投資効果(0.4%)というのは、株式投資など。
もっとはしょると、「今後、物価が年に1%ずつあがって、国債の利回りが2.7%で、株で0.4%はふやせる」ということである。
で、そんなことができるのかという根拠に、細野氏は過去20年ほどのデータ(1986年以降)を挙げてくる。それを見ると、確かに、国債の利回りが4%超えている時代もある。全体としての実質運用利回りが、5%を超えている時期もある。
しかし、これは麻野には微妙に思える。数字がいいのは、やはりだいたいにおいて景気のよかったときのものだ。今後そうなるかどうかは不透明すぎる。たとえば、1997年以降の国債の利回りは、ずっと、ほぼ2%かそれ以下だ。
しかも、物価上昇率が1%というのも、よくわからない。まあ、これはスライドをきちんと発動すれば関係ないのかもしれないが。(いかん、もしかしたらトンチンカンなこと言ってるかもしれない。この発言、なかったことに)
細野氏は、「年金は長期的な視野で見るべきものなので、この数年の経済の傾向だけで判断すべきではない」という内容のことを言っている。これは確かにそうなのだが、いささか不安になるのは否めない。
そして最後に残った「4:賃金上昇率が2.5%という高い設定」だが、これについてはこの本には言及はなかった。今後、なんらかのリアクションがないか、動向を見守りたい。
しかし、考えたらすごい話だ。賃金が毎年2.5%あがって、物価は1%しかあがらない未来って、かなりバラ色じゃないか? 毎年、1.5%ずつ豊かになれる。
それはさておき、野口氏の記事はタイトルは扇情的だが、結論は割とおだやかである。
「対応いかんによっては、厚生年金を破綻させることなく運営することは不可能ではない(逆に言えば、そうした対応を取ることが、いま求められることである)。」と述べている。
「オオカミが来るぞ-。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いつか」みたいな話だ。
細野氏によると、5年に一度、各数字が妥当かどうか、検討して調整することが決められているとある。つまり、問題は、そのときに数字が見直されるかどうかだけのことで、年金制度の根幹はゆるがないのだ。
ちなみに、細野氏の新著は、
「年金不信が将来不安を招く」→「みんな、金をつかわなくなる」→「不景気が続く」。
「これではいけない! 年金に対する不安をなくしたい!」
という動機の元に書かれたものだ。そういう意味では、野口氏の記事は、必要以上に景気に冷や水をあびせる記事だと思った。おしまい。
<おまけ>
野口悠紀雄の記事の最後に、「といっても、あまり負担金を増やすと、投資対象としてどうなのよ」的な嫌みも書いてある。
麻野が以前レビューした方の細野氏の本によると、今の20歳が年金を納めて、帰ってくる金額は1.7倍とのことである。もしこれが本当なら、これだけリターンのいい投資対象はあまりない。しかも、傷害保険とかもついてるのだ。少々負担が増えても、まだオトクだろう。
実は、これは麻野の勘ぐりだが、厚生年金は個人が半分払って、企業が半分払う。この企業が半分払うのが、日本の産業に負担になってると野口悠紀雄は考え、それを減らしたくて、こんなことを言ってるのではないかとも思う。
正社員は半分払ってもらえて、非正社員にないというのは、ものすごい不公平である。そっちの是正をしないとやばいのではと思う。
<もうひとつおまけ>
細野氏も、今後の年金が完全に安泰とは書いていない。今後、税金による補填が必要になる可能性にも言及している。そこで一番期待されているのが消費税のアップだが、高橋洋一は、『日本の大問題が面白いほど解ける本 シンプル・ロジカルに考える (光文社新書)』で、「消費税は、逆累進性が高い(金持ちに有利)ので、社会保障に使うのはふさわしくない」といっているのを、備忘録として付け加えておく。
詳細は、レビューや元の本を読んでもらいたいが、はしょって説明すると、「未納が増えているのは国民年金だけで、それは日本の年金制度の一部分だから問題ない」という主張だ。極端なたとえでいうと、日本でヤギのミルクの消費量が半分に減ったとしても、日本人の食生活にほとんど影響はない、というような話だ。・・・ああ、よけいわかりずらいか。
このレビューを書いたとき、麻野は自分なりに年金の勉強をして、この本をかなり信用した。この著者の他の本も読んで、著者自身にも信頼を置いていた。
ところが最近、このような記事があった。
「どう計算しても年金は2032年に破綻する。財政検証のゴマカシを剥いだ真実の姿」
ここで野口悠紀雄が言っているのはこうだ。
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・2040年に、受給者は2割増え、納付者は2割へる。
・現在の「マクロ経済スライド」制度や保険料率の増加では、対応がおいつかない。
・しかも、「マクロ経済スライド」制度自体が発動してない。
なのに、問題がないとされているのは、おかしい。これには、以下のごまかしがある。
・賃金上昇率が2.5%という高い設定。ありえない。
・積立金の運用利回りが4.1%という設定。これもありえない。
そのごまかしを是正し、「賃金上昇率=0」、「運用利回り=1.4%」で
検証すると、「厚生年金は2032年に破綻する、ガガーン!」
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経済のことなど麻野にはさっぱりわからんが、野口悠紀雄はなんとなく雰囲気で信用している。細野も野口もどちらも信用をしているのだが、その二人がまったく違うことをいっている。困った。
と思っていると、細野真宏が、またこんな本を出していた。
『細野真宏の最新の経済と政治のニュースが世界一わかる本!』
本屋で手に取ると、また年金のことを語ってる。即、買った。というのが、やっぱり、レビュー買いた手前、まちがってたとなると、夢見がわるいのだ。間違ってたなら間違ってたで、せめて明らかにして、「反省してまーす」(もう古いな)くらいは言いたいと思って。
で、野口説と細野説をつきあわせてよんでみて、麻野の考えを織り交ぜながら、色々書く。ちなみに、両者が出しているデータそのものは頭からうのみにしている。検証、面倒だから。また、年金は、「国民年金」、「厚生年金」、「共済年金」があり、両者がどれをさしているのかで、数値が変わることがある。たとえば、積立残金が野口氏は140兆あるといい、細野氏は200兆といっている。これはおそらく、細野氏は3つの合計で野口氏は厚生年金だけをいってるんじゃないかと推測するが、麻野は推測だけで確認しない。面倒だから。
もう一度、野口氏のあげる問題を書く。
1:2040年に、受給者は2割増え、納付者は2割へる。
2:現在の「マクロ経済スライド」制度や保険料率の増加では、対応がおいつかない。
3:しかも、「マクロ経済スライド」制度自体が発動してない。
4:賃金上昇率が2.5%という高い設定。ありえない。
5:積立金の運用利回りが4.1%という設定。これもありえない。
まず1。これに関しては、現在の年金制度はそれを想定して計算しているので、そのこと自体は問題にしても仕方がない。野口氏は、「これでもまだ甘い。今後、正社員が減って、ますます払う人がへるかも」と言っているが、払わなかったらもらえないので、長い目で見た場合は関係ない。
次に、2,3だが、これは数字上の問題なので、変えればいいだけのことである。
年金制度の根幹には関わらない。
麻野が問題視したいのは、4,5である。
このうち、5については、細野の新著でかなり細かく説明がある。(P100~P111)
名目運用利回り(4.1%)
=物価上昇率(1.0%)+実質運用利回り(3.1%)
=物価上昇率(1.0%)+将来の実質長期金利(2.7%)+分散投資効果(0.4%)
実質長期金利(2.7%)というのは、「10年物の日本国債」の実質利回り。
分散投資効果(0.4%)というのは、株式投資など。
もっとはしょると、「今後、物価が年に1%ずつあがって、国債の利回りが2.7%で、株で0.4%はふやせる」ということである。
で、そんなことができるのかという根拠に、細野氏は過去20年ほどのデータ(1986年以降)を挙げてくる。それを見ると、確かに、国債の利回りが4%超えている時代もある。全体としての実質運用利回りが、5%を超えている時期もある。
しかし、これは麻野には微妙に思える。数字がいいのは、やはりだいたいにおいて景気のよかったときのものだ。今後そうなるかどうかは不透明すぎる。たとえば、1997年以降の国債の利回りは、ずっと、ほぼ2%かそれ以下だ。
しかも、物価上昇率が1%というのも、よくわからない。まあ、これはスライドをきちんと発動すれば関係ないのかもしれないが。(いかん、もしかしたらトンチンカンなこと言ってるかもしれない。この発言、なかったことに)
細野氏は、「年金は長期的な視野で見るべきものなので、この数年の経済の傾向だけで判断すべきではない」という内容のことを言っている。これは確かにそうなのだが、いささか不安になるのは否めない。
そして最後に残った「4:賃金上昇率が2.5%という高い設定」だが、これについてはこの本には言及はなかった。今後、なんらかのリアクションがないか、動向を見守りたい。
しかし、考えたらすごい話だ。賃金が毎年2.5%あがって、物価は1%しかあがらない未来って、かなりバラ色じゃないか? 毎年、1.5%ずつ豊かになれる。
それはさておき、野口氏の記事はタイトルは扇情的だが、結論は割とおだやかである。
「対応いかんによっては、厚生年金を破綻させることなく運営することは不可能ではない(逆に言えば、そうした対応を取ることが、いま求められることである)。」と述べている。
「オオカミが来るぞ-。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いつか」みたいな話だ。
細野氏によると、5年に一度、各数字が妥当かどうか、検討して調整することが決められているとある。つまり、問題は、そのときに数字が見直されるかどうかだけのことで、年金制度の根幹はゆるがないのだ。
ちなみに、細野氏の新著は、
「年金不信が将来不安を招く」→「みんな、金をつかわなくなる」→「不景気が続く」。
「これではいけない! 年金に対する不安をなくしたい!」
という動機の元に書かれたものだ。そういう意味では、野口氏の記事は、必要以上に景気に冷や水をあびせる記事だと思った。おしまい。
<おまけ>
野口悠紀雄の記事の最後に、「といっても、あまり負担金を増やすと、投資対象としてどうなのよ」的な嫌みも書いてある。
麻野が以前レビューした方の細野氏の本によると、今の20歳が年金を納めて、帰ってくる金額は1.7倍とのことである。もしこれが本当なら、これだけリターンのいい投資対象はあまりない。しかも、傷害保険とかもついてるのだ。少々負担が増えても、まだオトクだろう。
実は、これは麻野の勘ぐりだが、厚生年金は個人が半分払って、企業が半分払う。この企業が半分払うのが、日本の産業に負担になってると野口悠紀雄は考え、それを減らしたくて、こんなことを言ってるのではないかとも思う。
正社員は半分払ってもらえて、非正社員にないというのは、ものすごい不公平である。そっちの是正をしないとやばいのではと思う。
<もうひとつおまけ>
細野氏も、今後の年金が完全に安泰とは書いていない。今後、税金による補填が必要になる可能性にも言及している。そこで一番期待されているのが消費税のアップだが、高橋洋一は、『日本の大問題が面白いほど解ける本 シンプル・ロジカルに考える (光文社新書)』で、「消費税は、逆累進性が高い(金持ちに有利)ので、社会保障に使うのはふさわしくない」といっているのを、備忘録として付け加えておく。
by asano_kazuya
| 2010-06-11 16:17
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